奴さんの「奴(やっこ)」は、「奴隷」の「奴」という漢字が当てられているように、下僕、召使いのことをいう。家の召使いという意味の「家つ子(やつこ)」が語源。特に、江戸時代、武家の召使いとして、槍や挟み箱を担いで行列の先頭に立つ姿がよく知られ、「奴さん」と親しみをこめて呼ばれるのはこの「やっこ」であり、その姿は「奴凧(やっこだこ)」に再現され、「奴豆腐」も奴さんが着ている着物の紋のように四角い形をしているからだという。
「奴さん」はまた、男性が会話の中で、互いに共通認識のある人物(主に男)を指し示す三人称代名詞として、つまり「彼」の意味で、親しみやいくぶんの軽蔑をこめて言う言葉である。ただし、いまどきの男性はよほどの年寄りでも「奴さん」などと口走っている人はおらず、オールドタイミーな映画やテレビドラマに出てくるきたない年寄りが「奴さん、先日酒場で見かけたが、今はどうしているやら……」などと言っているくらいのものである。(CAS)
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