ミートソースは、ひき肉を材料にしたソースのことであるが、日本ではスパゲティ・ミートソース(スパゲッティ・ミートソース)のことを主に言う。
ミートソースは、ナポリタンと並んで「日本の」スパゲティを代表する逸品であり、「喫茶店」で提供されるパスタ料理の双璧である。ソースは、タマネギなどを加えた挽肉を炒め、トマトソースやブイヨンなどで煮つめたもので、イタリアのボロネーゼ(ボロニェーゼ)ソースをアレンジして再現している。「ボロネーゼ」は、「ボローニア(イタリア南部の都市)の」という意味だが、ナポリタン(「ナポリの」という意味)がナポリとほとんど関係ないのに、堂々とナポリ料理もどきの名前を名乗っているのに対して、「ボロネーゼ」をそこそこ忠実に再現しているこの料理が「ミートソース」と称しているのは皮肉である。この名称の由来は、戦後に日本で初めて「ボローニア」を提供したレストランが「ミートソース」の名でメニューに載せたからだそうだが、おそらく「ボローニア」が日本人にとってあまりに無名で、「ボローニア」としたのではなんのことやらわからないだろうという老婆心から、親しみやすい名前で提供したのではないかと思われる(せめて、ベネチアやフィレンツェの名物料理だったら、そんなことにはならなかったろうに)。
喫茶店の二大パスタメニューであるミートソースとナポリタンだが、まだパスタ料理が珍しかったころミートソースは、野菜やハムをケチャップであえて炒めただけのナポリタンと比べて、家庭ではなかなかつくれないプロフェッショナルな風格を漂わせていた。しかし、早いころからこのソースは缶詰が販売されており、われわれ無知な子どもは、缶詰のソースをかけてパルメザンチーズとちゃっ、ちゃっと振っただけのミートソースをありがたがって食べていたのである。(CAS)