カテゴリー:音楽、演劇、芸能、映画
蛍の光は、スコットランド民謡「Auld Lang Syne(オールド・ラング・サイン:久しい昔という意味)」に、作詞家稲垣千穎(ちうね)が日本語の歌詞をつけた歌。日本語の歌詞は「訳詞」とは言い難いので、「蛍の光」は「Auld Lang Syne」の言わば「替え歌」である。原詩は、久しぶりに会ったおさななじみと乾杯して昔を懐かしむといった内容で、言ってみればこぎたないじいさんたちが居酒屋で昔話をネタにくだをまいているというような歌だが、日本語の歌詞では、学生が蛍の光や窓の雪を照明代わりにして苦学した(この部分の歌詞のネタ元はさすがのなんでも大げさな中国『晋書・車胤伝』)が、めでたく卒業できたというくそまじめな内容となっており、おかげで卒業式の定番歌となっている。一方、飲み屋やパチンコ屋の閉店時間でもこの曲が流されるのは、のんだくれやギャンブラーたちの一日の努力と苦労を本気でねぎらっているのか、原曲のユルい雰囲気が尊重されているかのいずれかであろう(誰もそこまで考えて使っていないか?)。
ところで本来の「蛍の光」は四番まで歌詞があり、三番、四番は、卒業して軍隊に入り、お国のために尽くすといった、明治初頭の国家のイケイケの雰囲気を表した歌詞となっている。このような歌詞は、敗戦後、軍隊を放棄して平和国家になったと称している日本にはふさわしくないものであり、現在では、まるで三番、四番なんて最初からなかったかのように、しらっとして一番、二番のみ歌って終わりにしている。(CAS)