カテゴリー:食文化、料理、食品、食材
包丁とは、料理人や料理担当者と調理中に口論するのをためらわせる道具。まさに手近にある凶器であるが、それでも、この凶器があまり人を傷つけるのに使用されないのは、人を刺した後に刺身を切ったりするのは穢れだと感じられるからであろう(違うか)。
「包丁」はもと「庖丁」と書き、『荘子・養生主編』に出てくる語で、「料理人」または「料理人の丁さん」または「庖丁という名前の有名な料理人」のいずれかの意味(「庖」は厨房の意味、「丁」はある仕事をしている人という意味なので、「料理人」と解釈するのが妥当かもしれないが、「庖丁」という言葉がこの文献くらいにしか出てこないところから、固有名と考えるのも一理ある)。『荘子』の記事は、文恵君という国王の前で牛の解体を行った「庖丁」を国王が大絶賛したという内容で、その後、「餅は餅屋に限る」というような意味の「庖丁解牛」という四字熟語として現代中国にも伝えられている。日本では、「庖丁刀」つまり「料理人の使う刀」が、いつしか「庖丁」だけで調理用の刃物を意味するようになったようであり、中国人には通じない。漢字も「庖丁」から「包丁」に変わったが、「包丁」だと「餃子の皮を包む人」みたいで、中国人は違和感を感じるであろう。ちなみに、日本の「包丁」は中国語では「菜刀(料理用の刀)」、「料理人」を表す言葉も「庖丁」は古語の部類に属し、現代では「厨師(厨房マスター)」が一般的である。中国の古典的な言葉が、わけもわかっていない日本人によって大切に守られてきた一例である。(CAS)