ほくそ笑むとは、人に隠れて笑う、人に気づかれない程度に少し笑うという意味。つまり、ズルいやり方でライバルを蹴落としたときとか、ギャンブルでいかさまが成功して大もうけしたときなど、ほがらかに高笑いすることはできないが、すっごくうれしいときに笑う笑い方である。
笑う、笑顔を見せるという意味の「笑む」に付いている「ほくそ」は、「ほくそ笑む」にしか見られない謎の言葉。それもそのはずで、この「ほくそ」は「北叟(ほくそう)」で、漢字は「北の(北方に住む)じいさん」を意味するが、あの「人間万事塞翁(さいおう)が馬」という格言で知られる「塞翁」さんのことをいう。北の要塞近くに住んでいた占い師の塞翁(これも「要塞のじいさん」の意味)が、どんな幸運にめぐりあったり不幸な目にあっても、「幸福は不幸の、不幸は幸福の前兆である」などとうそぶいて、いつもうすら笑いを浮かべて悠然とかまえていたら、言った通りに事態は進んだというのがその故事。塞翁こと北叟が常に浮かべていたそのうすら笑いが、「ほくそ笑む」の語源なのだという。おそらく日本語史上、もっとも人騒がせな語源ではないかと思われる。(CAS)