不条理とは、フランス実存主義のキーワードabsurditéの訳語として、いっとき知識人の間で流行った言葉で、原語は「筋の通らないばかみたいなこと」という意味で、訳語の漢字も「筋道が通らないこと」。現実の人間は放り出されてそこにあるような存在であり、誰かスーパーな人によって定められた人生コースや与えられた目標があるわけではないという、あたりまえのようなことを大げさに(特に日本の訳語になるとひどく大げさに)述べた言葉。一部のフランス人によると、人間の不条理を悟った人は、木の根っ子を見て吐き気をもよおしたり、太陽がまぶしいという理由で犯罪に走ったりする。つまり、現存在の不条理を悟ったとしても、本人や人間社会にとってよい結果が得られるわけではなさそうであり、しかも、人間のあり方を定めてくださる神様というような存在がはっきりしていない日本ではとっくの昔に世界は不条理であったのだが、当時の知識人は何かにつけて世の中の不条理を指摘しては喜んでいた。(CAS)