フーテンとは、定まった仕事や住所を持たない人のこと。もとは「瘋癲(ふうてん)」で、精神の均衡を失っていること、またはそういう人をいうが、「風来坊(ふうらいぼう)」や「プータロー(風太郎)」などの連想からか、1960年代に新宿に集ったヒッピー風の若者たちを「フーテン族」と呼ぶようになった。この「フーテン」には、「頭のイカれたヤツ」という本来の意味あいが十分に含まれていたように思われる。しかし、1968年にテレビドラマとしてスタートし、その後国民的映画シリーズとなった「男はつらいよ」の主人公車寅次郎の愛称「フーテンの寅さん」の登場で、「イカれたヤツ」のイメージは薄れ、旅から旅への自由気ままな暮らしを送っている心持ちの優しい「フーテン」のイメージが定着した。精神の均衡を失っているという意味の「瘋癲」は、マゾなじいさんの性欲を描いた谷崎潤一郎の『瘋癲老人日記』などに、そのおもかげをとどめるのみである。(CAS)