にやにやとは、人が薄笑いを浮かべているときその顔から聞こえてくる音を表現した擬態語。「にこにこ」が幸せそうな笑顔を意味するのに対して、「にやにや」は皮肉なことを考えていたり、他人の失敗をひそかに喜んでいたりするときの笑い顔を表している。「にやにや」にもっとエロさが加わってだらしなくなった笑いは「にたにた」といいあらわす。
『不思議の国のアリス』に登場するチェシャーキャット(Cheshire Cat)は、身体が徐々に消えていって“grin”だけが最後に残るという猫だが、この“grin”は日本語では「にやにや笑い」「にやつき笑い」などと訳される。しかし、grinは古代英語では「(苦痛や怒りで)歯を見せる」という意味で、チェシャーキャットも歯を見せて笑っているから、「笑い」だけが最期に残るという言葉の遊びがぎりぎりイメージとして想像できる。「にやにや笑い」は口の端を動かす程度の笑いの表現なので、歯を見せて笑う笑いの訳としては適切ではないように思われる。歯を見せる笑いであれば「にかっと笑い」あたりが適当な訳語ではないだろうか。
もっとも、言葉遊びのナンセンスを追求するのであれば、「笑いだけが残る」という状況をイメージしにくい「にやにや笑い」のほうが適切であり、作者にひとこと忠告しておきたい気もする。(CAS)