カテゴリー:食文化、料理、食品、食材
出前とは、日本における料理のデリバリーサービスを意味し、飲食店でできたてを食べるのが理想である料理を、めんどうくさがりな近所の人々のために、時間がたてば「寿司はかわき、そばはくっつき、天丼の天ぷらはぐちゃぐちゃになり、ラーメンは伸び、スープは冷め、カレーは固形のルーに逆戻りし……」という致命的なリスクをかえりみず、あえて自宅まで届けるというチャレンジ精神ゆたかなサービスのことをいう。
日本の出前の歴史はピザの宅配などよりよっぽど古く(宅配ピザの歴史についてはよく知らないが)、江戸時代初頭から似たようなサービスがあったという。上記のように、出前サービスの本質は、「本当は店で食べたほうがよい料理」をあえて家に届けるという点にあり(時間がたってもおいしい料理は、はじめから弁当などとして販売される)、そのため届けるまでのスピードが勝負となり、出前専用のオートバイなども用意されているくらいだが、忙しいときは小さな店では対応できず、さいそくの電話への「さっき店を出ましたよ」という応対によればとっくに家に着いているはずの時間を大幅に超過したうえに、とても食えたものではない料理が届けられることになる。このような事態に怒りをぶちまける注文主のために、新興のピザチェーンなどではお届けの制限時間を設けているが、歴史の重みの違う日本では、注文主も出前料理の本質や店の事情をよく理解しており、「まあ、しかたないね」という大人の対応をみせ、次回に期待して伸びきったラーメンをおいしくいただくのである。(CAS)