渋いとは、味覚の一種だが、主に渋柿の味のことをいう。つまり、えぐ味のある苦さに、「甘いだろう」との期待を裏切られたショックというスパイスをふりかけた刺激的な味である。
このような「渋さ」は、日本人の「わびさび」の好みに合致し、主に高齢者の愛好する価値観となる。例えば色でいえば、派手でなく地味、明るくなく暗い、かといって真っ黒のようにくっきりしておらず中間的な色、つまり「きれい」とはいえないどちらかというとうす汚い色である。また、中高年の男性で、若いヤツらのように元気ではなく、明るくなく、脂ぎってもいないが、落ちついていて風貌や言動に苦い刺激のある人物を「渋い」「苦み走っている」などとほめる。さらに演劇などエンタメの世界でも、主役級の派手さや明るさはなく、あくまでバイプレーヤーだが、特徴のない人物を堅実に造形して存在感を示す役者を「渋い」「枯れた芸だ」などと高評価する。つまり、人生経験が豊富だったり、業界の事情に詳しい、いわゆる「通(つう)」な人が、若いヤツらやしろうとが見逃したり、無視したりするところに価値を見出して自慢するという、いやみな好みだといえる。
それでもまあ、渋柿のどうしようものない味に逆転の価値を見出すという日本人独特の感性は、せいぜい大事にしたいものである。(CAS)