さすがとは、「そうはいっても」という意味の上代言葉「しかすがに」が「さすがに」に変化し、「に」が落ちたもので、意味も当初の「そうはいっても」に、「予想どおりに」「期待に違わず」という用法が加わり、現代では主に後者の意味で使われている。有名な芸術家が新作を発表したとき、その価値がまったくわからず、「もしかして駄作なんじゃないの?」と疑念をいだいたとしても、「さすがです」と言っておけば万事丸く収まる便利な言葉である。
「流石」という漢字表記は、中国の子ども向けの伝統的な教科書『蒙求(もうぎゅう)』に載る「漱石枕流」の故事によるとされる。これは、西晋(せいしん)の国の孫楚(そんそ)が世俗を離れた暮らしを「枕石漱流」すなわち「石に枕し、流れに漱(くちすす)ぐ」と言うところを、誤って「漱石枕流」と言ってしまい、友人の王済に指摘されると、「流れに枕して耳を洗い、石粒で歯を磨くのだ」と意地を張って言い訳したというお話し。「さすがにうまいこじつけだ」というわけで、「流石」という字を「さすが」に当てたのだという。そうだとしたら、こちらの方のこじつけはあまり出来がよくないといわざるをえない。
ところで、日本人なら誰でも知っている有名な作家・夏目漱石は、この故事からペンネームを採ったわけだが、初期のコミカルな小説にも見られるそのアイロニカルなセンスは「さすがです」。(CAS)
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