狼狽とは、あわてふためくこと、うろたえることなどをいう。「狼(ろう)」も「狽(ばい)」も中国の伝説上の動物で、漢字からみてもオオカミの一種だが、問題なのは、「狼」は後ろ足が短く、「狽」は前足が短いということ。そのため、「狽」が「狼」の背中に乗っていつも一組で歩き(それでなぜちゃんと歩けるのかはよくわからないが)、引き離されてしまうと大いにあわてることからこの言葉がある。「狼」も「狽」も、たぶん「後ろ足が短い」「前足が短い」という、言葉の上の発想から生まれた動物に違いないが、そのむちゃくちゃな前提に沿って、それなりに筋道の立った物語が生まれ、慣用語までできてしまうという、ナンセンスの王道を行く中国人の妄想力は、フランスのヘンな作家レーモン・ルーセルの言葉遊びから展開する物語や、イギリスのヘンな詩人エドワード・リアの韻を踏むことが意味のつながりより優先される詩に匹敵するものであり、感服しつつ、あきれかえらざるをえない。(CAS)
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