見えを切る(見得を切る)の「見え(見得)」は、歌舞伎で、劇のクライマックスに達したとき、役者が突然動きをとめ、観客に向かってへんな顔をして力みかえるという不思議な演出法のこと。「見えを切る」は「見え」の動作をとる、という意味、これは、観客に役者の格好いいところを存分に見てもらおうというストップモーション的手法であり、観客にかけ声をかけるきっかけを与える仕草でもある。クライマックスに達すると突然役者が歌ったり踊ったりしはじめるミュージカルと、どっこいどっこいの不自然さだとはいえる。
慣用句としての「見えを切る(見得を切る)」は、歌舞伎の立て役(主人公)が見えを切るときのように、大きな態度をとったり、偉そうなことを言うという意味で用いられる。しかし所詮は芝居の上での態度や言動なので、「虚勢を張っている」というニュアンスが強く、実際の使用においては、語頭に「大(おお)」をつけて「大見得を切る」と、虚勢を張っている感を強める言い方が通例である。ビジネスの場などで「この件に関してはオレが全責任をとる」などという発言をするヤツがいると、それを聞いたまわりの人々が全員、「きっとあいつは肝心なときには逃げ出すに決まっている」という期待をこめながら、「あいつ、大見得を切りやがった」などとささやきかわすのがこの言葉の正しい使い方である。(KAGAMI & Co.)