幻(まぼろし)とは、現実としてあるかのように見える非現実のものをいう。そこから、「人生はまぼろし」のように、すぐに消え去るはかないもの、「まぼろしの大陸」のように、実際にあるかどうか確認されていないものなどの意味でも用いられる。また近年では、生産量、流通量が少ないわりに人気が高く、入手困難な商品を、消費者が実体として手にすることが難しい商品というわけで、「まぼろしの吟醸酒」「幻の初版本」などと用いることがある。しかし、だからといって「まぼろしのたこ焼き」だの「まぼろしの温泉まんじゅう」だのと騒がれても、「なんだかなあ」という気にはさせられる。
「まぼろし」の語源は、目が朦朧となる、ぼんやりするという意味の「目惚る(まほるる)」あたりかといわれる(『大言海』)が、諸説ある。「目惚る」が語源だとすれば、昔の人も、ありもしないものを見るのは、目がどうかしているからだという冷静な観察眼を持っていたのだと感心するが、ひとつ彼らに教えておきたいのは、朦朧としたり、ぼんやりしたりしているのは、目ではなくててたいていは頭の働きである。(CAS)