忙殺という文字ヅラからは「忙しくて殺されそう!」という悲鳴が聞こえてきそうだが、「殺」はそれほど切羽詰まった意味ではなく、単に強調のために添えられた漢字らしい。「忙殺」は「事務処理に忙殺された」などのように用い、「ほかの大事な仕事に手をつけられない」というニュアンスをこめた忙しさを表現している。現代中国語にはこの言葉はないようで、日中辞典で「忙殺」をひくと、「非常忙(とっても忙しい!)」という実にまっとうな訳に遭遇する。どうやら中国には、仕事に夢中になって死んだのも気づかないようなあわて者や、会社のみんなのためだなどとはげまされ、断ることもできずにきつい仕事に追われて死んでしまうようなお人好しはいないようである。一方日本では、「忙しくて殺される!」 ことが往々にしてあり、「殺」がたんなる修辞とは言っていられない現状である。もっとも、前述したようにこの「忙殺」は、「忙しくて他の仕事ができない」というニュアンスの言い方であり、「死んでも働きたいのか、こいつ」とつっこみたくもなるような私たちの性(さが)を言い表しているといえそうだ。(KAGAMI & Co.)