名乗りを上げるとは、名前を大声で言うという意味だが、いにしえの戦争で武士が戦う前に、敵方に対して自身のプロフィールを紹介した行為をいい、現代でも、選挙戦への立候補やスポーツ大会への参加を表明するときに「○○が××戦に名乗りを上げた」などと用いられる。だからといって、現代の「名乗り」は「やあやあ遠からん者は音にも聞け、われ○○は××戦に立候補せり」などと大音声で呼ばわったりはしない。
名乗りを上げる行為は、近代戦争ではありえないのんきな習慣のようにみえるが、戦争が終わって報告書をまとめるさい、戦った相手が誰だったかを知り、自身の手柄をはっきりさせて適切な恩賞にありつくためにお互い必要だったのであって(殺された方は名乗りの上げゾンではあるが)、戦場ではスポーツの試合のようにリングアナウンサーや球場DJなどいないから、自分で名乗るしかなかったのである。戦闘直前で緊張が極度に高まっているときに自己紹介しなければならないとはご苦労なことであるが、事前の紹介は担当者にまかせればよい現代のスポーツでも、戦って勝利した後(ときには負けた場合も)、気の利いたコメントの一つも吐かなければならないので、それはそれでご苦労なことである。(CAS)