ドリッピング(dripping)とは、アメリカの画家ジャクソン・ポロックが用いた絵画技法。穂先が固まったブラシやパレットナイフ、棒、ときに注射器や穴を開けたペンキ缶などを使って、床面に敷いたキャンバスに絵の具(ポロックの場合は主に塗装用のエナメルペイント)を滴らせたり、飛び散らせたりして描くもの。ブラシを画面に直接接触させずに描くので、偶然性に大きく左右される技法である。要するに思った通りに描けない技法であり、思った通りに描いてもうまく描けない人向けの技法だといえる。
ドリッピングと同様の技法にポアリング(pouring)があるが、pourは水を注ぐ、かける、流すという意味であり、ドリッピングが水滴を垂らしたり、散らしたりするように描くのに対して、ポアリングは注ぎかけるように描く技法である。ポロックの絵画の線状のしたたりはポアリングによるものといえるが、解説書や批評を見てもポアリングとドリッピングをうるさく使い分けている様子はなく、どうせポロックの絵にしか用いない用語なので、どっちを使ってもかまわないというのが実情のようである。日本では、ポアよりドリップの方が通じやすい(ドリップコーヒーなんてのもあるし)ので、ドリッピングの方がよく用いられているようである。
ドリッピングやポアリングの技法は、ポロックオリジナルの技法であり、プロの画家の間ではポロックで終わった技法だともいえる。なぜなら、この技法で描くと誰が描いてもポロックの絵みたいに(ポロックの絵をヘタにしたみたいな絵に)なってしまうからで、ご当人のポロックも、ポロックの絵に飽きて、途中でスタイルを変えてしまったくらいである。
現代ではドリッピングは、お絵描きに名を借りたどろんこ遊びの方法として、子どもたちのストレス解消に役立っている。(CAS)