鉄火巻きとは、マグロの赤身を芯にした細巻きの海苔巻き寿司。カッパ巻きと並ぶ海苔巻き寿司の定番で、一番安いにぎり寿司のセットには、鉄火巻きとカッパ巻きがたいてい3個ずつの2列縦隊で収まっている(3個なのは、長い海苔巻きを1本作って6個に切る制作上の都合かと思われる)。
鉄火巻きはマグロを芯にしているので、カッパ巻きやかんぴょう巻き、納豆巻き、たくわん巻きなど同類の海苔巻き寿司に対して、「他のヤツらと一緒にしないでくれる」というセレブ感を漂わせている。しかし、よく考えてみれば、使用しているマグロの量は非常に少なく、回転寿司では同じ百円皿に乗っており、そもそも比較する他の海苔巻きがあまりに貧弱すぎるからお山の大将でいられるのであって、近年、ウニやイクラなどの高級食材をおしげもなく使う軍艦巻きや、家庭で手軽に作れて具材も自由に選べる手巻き寿司、さらに海外からのアイデアもとりこんだ太巻き寿司の進化もあり、細巻き寿司業界全体の凋落とともに、鉄火巻きも影が薄くなっている。
鉄火巻きの「鉄火」は、真っ赤に焼いた鉄のことで、中のマグロをその鉄火に見立てたのが鉄火巻きだという。また「鉄火」という言葉は、博奕打ちや気性の荒い性格をいうことがあるが、その昔犯罪の裁判において神前で真っ赤に焼いた鉄を握らせて容疑者の有罪無罪を判定したところから(みんな有罪になったに決まっているが)、一か八かの勝負にかける激しい性格やそういう人物を「鉄火」と呼ぶようになったようである。鉄火巻きも、そういう鉄火な連中が「鉄火場(博奕場のこと)」でつまんだ寿司だったことから名付けられたという説もある。(CAS)