マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp)1887-1968。フランス出身のアーティスト。20世紀の前衛芸術を先取りし、多くの才能豊かな若いアーティストをガラクタ造りに走らせた張本人。
デュシャンは前衛芸術の祖であるとともに、現代に生息する「オタクなおやじ」の祖でもあり、その生態は作品にあますところなく表現されている。例えば、①ダジャレ、おやじギャグ=「エナメルを塗られたアポリネール(サポリン・エナメルという塗料の広告をもじったもの)」「L.H.O.O.Q.(彼女のお尻は熱い、興奮していると読める)」「フレッシュ・ウィドウ(未亡人と窓のダジャレ)」など言葉遊びのタイトル。②パロディ、自虐ネタ=「L.H.O.O.Q.(ダ・ヴィンチのモナリザにひげを描き加えた作品)」「髭を剃られたL.H.O.O.Q.(自作のパロディ)」③エロ、しかも鬱屈した変態的なエロ=「遺作(のぞき見趣味、少女の裸体)」「大ガラス(正式なタイトルは「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」)」「雌のイチジクの葉、Objet-Dart(女性器と男性器をかたどったオブジェ)」④コスプレ、女装=ローズ・セラヴィという変名による女装ポートレート(マン・レイ撮影)。⑤自慰行為=「大ガラス」「チョコレート粉砕器」(男性の自慰行為を象徴する作品と言われる)」⑥機械フェチ=「回転硝子板(機械そのものの作品)」「大ガラス(マシンや金属のイメージ)」「階段を下りる裸体(ロボットをイメージさせる人体)」⑦秘密、謎、ミステリー愛好=「秘められたる音に(他人が選んだなにかが中に入っているオブジェ作品)」「遺作(極秘裏に作成されていた)」⑧収集癖、ミニチュア趣味=「トランクの中の箱(自作のミニチュアを詰め込んだトランク)」「グリーンボックス」「ホワイトボックス」(自作の習作メモなどの集積)⑨面倒くさがり、手抜き=レディメイドのオブジェ(既製品をそのまま、あるいは多少手を加えて作品としたもの)⑩偶然性や欠陥を好む茶人的わび趣味=「停止原器の網目(放り投げて床に落ちた紐を『原器(基準となる器具)』とした作品)」「大ガラス(完成後入ったひび割れをそのまま残すよう指示)」(CAS)