茶の間とは、英語に訳せばtea roomだが、そんな小じゃれた部屋ではなく、いわゆる居間(living room)のやや古めかしい言い方であり、丁寧語の「お」をつけて「お茶の間」ともいわれる。特に昭和時代、卓袱台(ちゃぶだい)を出して食事をし、テレビを見て団らんし、場合によっては客間にも、家族の寝室にもなったフレキシブルな空間についていう。いくら客間や寝室になるといっても、食事が日々の定例行事であるから、「食事室」とするのが適切ではなかろうかと思われるが、必ずしも必要ではないのに家族が集まってお茶を飲みながら無駄話をするというお茶の時間が取りあげられることにより、家族の「団らん」がクローズアップされている言葉と考えられる。そのころ家族団らんの中心にあったのは「テレビ」だったので、「茶の間」または「お茶の間」は、特にテレビの人気タレントが一家の団らんを想定してテレビの向こう側に呼びかける「仮想の空間」を表す言葉として機能していた。つまり、ありもしない一家団らんの空間をでっちあげた言葉であるから、住宅が洋風化し「茶の間」という雰囲気がすっかりなくなってしまった昨今でも、テレビの向こうからは「お茶の間のみなさま」などという空虚な呼びかけがいまだになされているのである。(CAS)
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