座る(坐る)とは、体重を支えたり身体を移動させる仕事に従事している脚に臨時休暇を与え、尻を代役に立てる行為である。尻は脚のようにアクティブではないので、座っているとき人はじっとしているしか方法がない。
日本人は家に入るとき靴を脱ぎ、床に直接座るという生活スタイルを昔から常としている。一方、西欧諸国や中国などでは椅子に座る生活が基本である。人は椅子(とくに背もたれのある椅子)に座る場合、自然とかしこまった姿勢になるので、相手に無礼な態度を見せたければ、アメリカ人のように靴をはいたままテーブルの上に足を乗せるなどして姿勢を崩す必要がある。一方、日本人のように直接床に座る場合は、その姿勢は決してお行儀のよい形にはならないので、礼儀をただすためにいくつかの座り方が考案された末、茶道において狭苦しい茶室に座るために用いられた「正座」という、脚に負担をかける無理な座り方が最も美しい姿とされるにいたった。しかし、そんな姿勢を長い間とりつづけるのはばかばかしいと、明治維新の西洋化でようやく気づいた日本人は、公の場では西洋式の椅子座をとりいれ、脚の負担から解消された。一方、礼儀をただす必要のない家の中では自然とリラックスできる床座の生活がいまも根強く続いており、油断しているといつのまにかソファを背もたれにして床に座っているというような不思議な暮らし方をしている。(CAS)