カテゴリー:慣用語、擬声語、擬態語
先駆け(先駈け、魁)とは、戦場で他の者に先んじて攻め込むことをいい、そこから、他人より先を行くことや人に先んじてものごとを始めること(つまりパイオニア)をそう呼んでいる。「駆ける(駈ける)」とは速く走るという意味。「先走り」も「先に立って走ること」だが、こちらは「気持ちばかり先走りしてちっとも前に進まない」などというように、あまりいい意味では用いられない。
そこで「走る」と「駆ける」をもう少し分析してみると、「走る」の方は「目的地まで速いスピードで移動する」という客観的な視点での言葉であるのに対して、「駆ける」は狩猟などの「狩り」と同源の「駆り」から来ているように「追い立てる」というニュアンスを含む言葉であり、「自分を追い立て、気持ちを奮い立たせ、足を使って急いで進む」(『基礎日本語』角川書店)という主観的な意味あいで用いられる。競走を意味する「駆けっこ」は、他人に負けないように気持ちをふるいたたせて走ることであり、「走りっこ」とはいわない。一方、「百メートルを十二秒で走った」という客観的な事実を述べる言い方には「駆けた」はあまり使わない。
こうしてみると「先駆け(先駈け、魁)」は、自分の気持ちを奮い立たせて先陣を切るという主観的な意味あいの強い言葉であり、そのようにして「先駈けている」ヤツを客観的に見ているのが「先走り」であり、「あの野郎、いい気になって先を走っているが、ぜったい失敗するぞ」みたいな嫉妬や羨望を含んだ「先駈けてない」ヤツらの視線を感じる言葉なのである。そう考えれば、「先走り」があまりいい意味で用いられないのもよくわかる。
なお、「さきがけ」に当てられた漢字「魁」は、先頭を行く者、リーダー、かしら(統領)を意味し、集団のトップという意味あいはない「さきがけ」とはややズレた当て字だといえる。(CAS)