牛とは、その肉がもう少し人間の味覚にそぐわなかったら、もっと他の生き方もあったろうにと同情を禁じ得ない動物。
江戸時代まで日本では一般的に、動物を食肉のために飼育するという習慣はなく、牛は耕作用の労働力として飼われていた。明治時代、西洋文化の導入とともに牛肉食も推奨されたが、日本人がその肉を常食するようになったのは太平洋戦争後である。牛肉食が広まると、日本人は過去の牛との友情もすっかり忘れ、「よりうまい牛」を各地で争って育てるようになり、「kobe beef」はいまや世界的なブランドとなっている。牛にとって安息の地のひとつはこうして失われ、いま彼等は聖地インドに憧れる日々を送っているのである。(CAS)