一生懸命とは、命懸けでものごとに取り組む姿勢をいう。中世の武士が与えられた所領を命懸けで守ったという「一所懸命」の「一所(いっしょ)」が、近世中期ごろから「一生(いっしょう)」と誤用されて派生した言葉である。本来が誤用から生まれた言葉なので、「一生」の意味にこだわると、全体を理解するのが困難になる。例えば「一生懸命」を「一生を通して命懸け」と解釈すると、ある仕事に対して「一点集中して取り組んでいます」という意味あいが薄れ、「人間の集中力が一生涯続くわけないだろ」というつっこみを受けることになる。また「一生懸命」を「人生(一生)を捧げるほど命懸け」と解釈すると、「一生を懸ける」と「命を懸ける」で意味が重複し、物書きのプロから「あまり上質なレトリックとはいえませんねえ」という批判を受けることになる。以上のような理由から、「一生懸命」の「一生」は単なる言葉の飾りと考えるのが妥当であろう。そしてまた「一点に集中して頑張る」という意味あいを的確に表現したいなら、やはり元祖「一所懸命」を使用するのが賢明かと思われる。(CAS)